2024年11月のポンド円相場動向:政治・金融政策の複合的影響分析

2024年11月のポンド円為替市場において、相場は様々な要因が交錯する中で不安定な動きを示している。11月11日時点でポンド円相場は1ポンド=198円前後で推移しており、これは10月下旬に記録した199円台からわずかながらポンド安の水準となっている。この相場変動の背景には、イギリス国内の政治動向、アメリカの大統領選挙結果、そして両国の金融政策など、複数の要因が影響を及ぼしている。
イギリスの政治情勢に関しては、2024年7月の総選挙を経て発足した労働党のキア・スターマー政権が、10月30日に重要な予算案を発表した。この予算案はスターマー首相就任後初めての本格的な財政方針を示すものであり、金融市場ではその内容が歳出拡大的であると評価された。この発表を受けて市場では財政規律への懸念が台頭し、ポンド売りの圧力が強まることとなった。具体的な市場の反応として、ポンドの対ドルレート(GBP/USD)は発表日の10月30日に0.41%の下落を記録し、翌31日にも0.49%の下落を示している。
アメリカの政治動向もポンド相場に大きな影響を与えている。11月に実施された大統領選挙においてドナルド・トランプ前大統領が勝利したことで、アメリカの金利先高観が強まり、これがポンド下落の追加的な要因となった。選挙結果が確定した11月6日には、ポンドは対ドルで1.25%という大幅な下落を記録している。
金融政策面では、イングランド銀行(BOE)が11月7日の金融政策理事会で重要な決定を行った。政策金利を0.25%引き下げて4.75%とすることを決定したが、これは8月以来2会合ぶりの利下げとなった。しかし、BOEは同時にスターマー政権の予算案について、実現すれば英国経済の成長率が従来の見通しを上回る可能性があり、また物価上昇率を押し上げる効果があるとの見方を示した。この見解は、年内の追加利下げに対して慎重な姿勢を示唆するものとなっている。
具体的な相場の動きを見ると、LSEGの報告では、ポンド円相場は11月8日の取引で一時1ポンド=196.73円まで下落した。これは前日の199.55円から2.82円という大幅なポンド安を記録したことになる。ただし、11月11日の東京市場では198円前後まで値を戻している状況である。
市場の見通しにも変化が見られる。ブルームバーグによれば、12月の理事会後の政策金利予想は、予算案発表前は4.55%程度であったが、発表後は4.65%程度まで上昇している。11月11日時点での12月利下げの市場予想確率は20.1%となっており、追加利下げへの期待は後退している。
一方、アメリカの金融政策も市場に影響を与えている。連邦準備制度理事会(FRB)が利下げ路線への軸足を維持する姿勢を示していることから、ドル高見通しは後退している。実際、11月7日にはポンドが対ドルで0.84%上昇するなど、FRBの政策スタンスがポンド高要因として作用している。
このように、現在のFX市場では、トランプ氏の勝利に伴うドル高圧力と、FRBの利下げ路線がもたらすドル安圧力が同時に存在する複雑な状況となっている。加えて、イギリス国内では労働党政権の予算案による財政拡大懸念がポンド安要因として残存する一方、BOEの金融政策との相互作用により、今後のポンド円相場は不安定な値動きを示す可能性が高い状況が続くものと考えられる。特に、両国の金融政策の方向性や政治情勢の展開次第では、相場の変動性が一層高まる可能性も指摘されている。
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